ふと耳に残った、自分の笑い声
ある夜、友だちと他愛もない電話をしてた。
仕事のグチ半分、しょうもないネタ半分。
お互いに「それはないやろ〜」って突っ込み合ってるうちに、
ふと、自分の笑い声が耳に残った。
「あ、今の声、なんか久しぶりやな」
その瞬間のあたしは、
鏡の前で作る“写真用スマイル”とも違うし、
仕事モードの「とりあえず笑っとこ」顔とも違ってた。
目じりのしわも、ちょっと高くなる声も、
全部ひっくるめて、
「あ、これがほんまのあたしの顔やな」
って、妙に腑に落ちた。
それからや。
仕事で派手に転んだ日も、
人間関係がどうにも噛み合わへん夜も、
心が完全に折れる手前で、
あの時の自分の笑い顔と笑い声を思い出すようになった。
「一回、あそこまで戻れたら、まだ大丈夫やろ」
そう思えたことで、ギリギリ踏みとどまれてる日が何回もある。
そのうち、あたしははっきり気づいた。
笑いは、偶然降ってくるラッキーアイテムやなくて、
取りに行ける“技術”なんちゃうか?
って。
忙しさの中に、先に「笑う予定」を置いとく
忙しくなればなるほど、笑うタイミングって後回しになっていく。
「落ち着いたら、また遊びに行こう」
「余裕が出てきたら、あの動画また見よ」
──で、その「落ち着いたら」「余裕が出たら」は、だいたい来えへん。
せやから、あたしは発想を逆にした。
先に予定に「笑う時間」を入れてまう。
たとえば、
- 仕事帰りに、必ず好きなパン屋に寄る日を決める
- 10分だけ、気の置けへん人に電話する時間をカレンダーに入れる
- 寝る前に、絶対笑ってしまう短尺動画を1本だけ観る
手帳やアプリの予定欄に、堂々と
「20:30〜 くだらん動画タイム」
「18:00〜 ○○ちゃんとダベり」
って書いてしまう。
不思議なもんで、予定に書いた瞬間、
脳のどこかがその時間に向けてふわ〜っと緩み始める。
ここで大事なのは、
- 場の空気を整えるための「社交の笑い」じゃなく
- 誰に見せるでもない「素の笑い」を取りに行くこと
やと思う。
相手に合わせる笑いも必要やけど、
あたしを回復させてくれるのは、
一人で見てても、気心知れた相手と話してても、
勝手に吹き出してしまう系の笑いや。
子どもの頃から好きなギャグとか、
何度観ても笑ってしまう動画とか、
「あの人としゃべると、くだらんことでめっちゃ笑ってまう」という相手とか。
そういう“素の笑いのタネ”を、手を伸ばせば届くところに置いとく。
締切前の修羅場ほど、
あえて10分だけ軽口を交わせる相手に連絡したり、
過去の自分の「ゲラゲラ顔」の写真を開いたりする。
「集中切れるやろ」と思うかもしれへんけど、
実際はその逆で、
ちょっと笑うと視野が広がって、
さっきまで詰まってたところがスルッとほどける。
笑いは、作業を邪魔する敵やなくて、
また前に滑り出すためのクラッチみたいなもんやな、と思う。
笑った瞬間を、少しだけメモしておく
もうひとつ、あたしがやってるのが「笑いログ」。
たいそうなもんやなくて、
- いつ
- 誰と
- 何に笑ったか
を、100字くらいでメモ帳に残しておくだけ。
「10/3 夜 ○○ちゃんと通話。
仕事の凡ミス話して2人で変な笑い方になった。
あの瞬間、全部どうでもよくなった。」
こんな雑なレベルで十分。
気が向いたら、
笑い声そのものをスマホでちょっと録音しておくこともある。
落ちた日にそのログを読み返したり、
声を再生したりすると、
過去のあたしが未来のあたしに手を振ってくれてるみたいな感じがする。
証拠があると、人は「笑えてた自分」をちゃんと思い出せる。
思い出せたら、そこに戻る道も描きやすくなる。
この「思い出す力」を鍛えるために、
笑いの記録は意外と効く。
ついでに、週に一回だけ、
「好きなものリスト」も更新する。
人、場所、音、匂い、食べ物、言葉……
その週に「あ、これ好きやな」と思ったものを、十個くらい書き出す。
そして、へこんだ日は、その中から一個だけ実行する。
- お気に入りのマグカップで白湯を飲む
- 陽の当たる場所に椅子を移して座る
- 窓を開けて、空の色だけ確認する
それだけで、気持ちは半歩だけ前へ動く。
半歩でええ。
半歩が積み重なったら、ちゃんと「戻る道」になる。
体から心へ戻るための、ちっちゃい非常口
どうしても笑えへん日もある。
そういう日は、
心をなんとかしようとするんやなくて、
体の方から先にほぐす。
鼻から4秒吸って、6秒で吐く。
肩甲骨をぎゅっと寄せてから、ストンと落とす。
足の裏をゆっくり押す。
胸の前で手を組んで、ぐーっと伸びをする。
どれも「運動」と呼ぶほどのもんやない。
でも、そのちょっとした動きが、
「そんなに固まらんでええで」
って、心に合図してくれる。
どうしても笑いのスイッチが入らん日は、
口角を2mmだけ上げる“形だけ笑い”でもいい。
鏡を見て、「なんやこの顔」と
逆に笑ってしまう日もあれば、
何も起きへん日もある。
それでも、世界の見え方は、ほんの少しだけ変わる。
体は、心が渋滞したときの非常口やと思ってる。
笑えたら、それでええやん
失敗はこれからも普通にやらかすし、
雑音も、誰かのマウントも、完全には消えへん。
それでも、
- 笑う予定を先に仕込んでおいて
- 笑った瞬間をちょっとだけ記録して
- どうしてもしんどい日は、体からゆるめる
この三つだけ整えておけば、
落ちたときのダメージは、少しマシになる。
あたしは今日も、小さく笑えそうな予定をひとつだけカレンダーに入れて、
夜になったら「今日笑えたこと」を一行だけログに書く。
明日つまずいても、
戻る場所はもう用意してある。
それだけで、人はもうちょっとだけ粘れるんちゃうかな。
魂の一句
「笑えたら、それでええやん。」

